つれない男女のウラの顔
「急にごめんなさい…ちょっと調子に乗りすぎましたね」
「いや、本番まで一週間しかないし、これくらいしないとダメだろ」
成瀬さんはそう言うと、小指だけ絡んでいた手を一度解き、今度は全ての指を絡ませ手を握ってくれた。
自分から仕掛けたくせに、今度は私の顔が赤くなる。せっかく落ち着いていたのに、あっという間に熱を取り戻してしまった。
恐らく本番ではこんなことしないだろし、今はその日のことなんて考えたくないけど、そのお陰でこうして成瀬さんとカップルのように手が繋げたことに幸せを感じる。
悪い女でごめんなさい。でも今は、この手を離したくない。
握られた手を握り返して、チラッと成瀬さんを確認する。と、彼も私を見ていたらしく、すぐに視線が重なってドキッと心臓が跳ねた。
どうしてそんな目をするの。まるで好きな人を見るような、優しい目を。
これも男性に慣れるための練習の一部?だとしてもそんな目で見ないでほしい。こんなの惹かれる一方だよ。
気持ちが膨らめば膨らむほど、本番のことを考えると気が重くなる。やっぱり断ろうかな、と考えてしまうくらいには。
だけど私の頭の中は、成瀬さんと同じくらい両親のこともいっぱいで。デートが決まった時のあの母の嬉しそうな声や、父の夢のことを思うと自分の気持ちばかり優先出来ない。
成瀬さんの恋愛対象になれたらいいのだけど…きっと無理だろうな。