つれない男女のウラの顔
「とりあえず映画でも見るか?」
色々と考えた結果、映画鑑賞という無難な答えに辿り着いた。これなら目を合わせなくて済むし、共通の話題も出来るからだ。
コーヒーが入ったマグカップをテーブルに置き、代わりにリモコンを手に取る。そのまま花梨の隣に腰を下ろし、平静を装いながら映画を選ぶ。
「洋画でいいか?」
正直に言えば映画どころではない。花梨との距離が近すぎて、冷静に字幕を追える気がしない。
この緊張を悟られまいと必死にポーカーフェイスを貫いているが、不意打ちを食らえばすぐに崩れそうなほどギリギリのラインを保っている。
花梨はひたすら赤面しているが、俺はテレビに映るラブシーンも無表情で耐えた。この調子でいけば、この拷問にもなんとか耐えられそうだ。
───と、安堵した矢先のことだった。
花梨の手が突如俺の手に触れて思わず息を呑んだ。
ただぶつかっただけかと思えば、その手は離れるどころか、そのまま俺の小指に絡めてくる。思わぬハプニングに、ギリギリで保っていたものが呆気なく崩壊した。
「成瀬さん、それ…」
「こら、こっちを見るんじゃない」
頼むからこっちを見るな。俺は不意打ちに弱いんだ。
せっかく年上の余裕を見せていたのに、全て水の泡じゃないか。
こっちの気も知らずに…これ以上煽らないでくれ。