つれない男女のウラの顔

触れているのは小指だけなのに、花梨の熱が俺を狂わせる。自分から触れるのとは訳が違う。花梨の方から仕掛けてきたせいか、心が酷く乱れている。

形勢を逆転させるために、今度は俺から手を握った。“特訓”であるように見せかけて、時間がないからと言い訳をして。

すると今度は花梨の顔がみるみる赤くなっていった。けれど彼女は嫌がることもなく、むしろ応えるように握り返してくれた。

花梨の手に触れるのはこれが初めてではない。けれど、一昨日の夜は俺が一方的に自分の手を重ねただけだったから、こうして握り返して貰えたことが嬉しかった。


手を繋いだまま映画鑑賞をするとか、まるでカップルのようだ。いい歳して何やってんだ、と心の中でツッコミを入れつつ、自分から解くつもりは1ミリもなかった。


映画に集中しているふりをして、時折隣を確認する。白い肌にほんのり赤い頬、長い睫毛に綺麗な二重の目。見れば見るほど可愛く思えて、自分だけのものにしたいと思ってしまった。

うとうとし始めた花梨が、俺に体を預けて目を閉じる。「まだ寝たくないのに」とボソッと呟いたのが聞こえて、思わず口元が緩みそうになった。


体が密着しているせいか心臓が激しく波打って落ち着かない。そんな俺を余所に、花梨は呑気に睡魔と戦っている。

さすがにまずいな。無自覚な女ってこんなにも怖いのか。


これじゃどっちの特訓か分からない。

< 165 / 314 >

この作品をシェア

pagetop