つれない男女のウラの顔

映画に意識を集中させること数分。程なくして聞こえてきたのは小さな寝息だった。

俯き気味になっている花梨の顔を覗き込むと、規則正しい寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っていた。もちろん俺の手を握ったまま。


空いた方の手で、顔にかかった髪にそっと触れる。やわらかくサラサラとした髪からはシャンプーの匂いがした。


「…本当にキツいな」


自分の頭をくしゃっと掻いて、込み上げてくる感情をぐっと堪える。


さすがに無防備過ぎるだろ。俺も一応男なんだが。
隣にいるのが例の幼なじみでも、同じことをするのか?想像したくもないな。


「花梨」


名前を呼んでも反応しない。起きる気配がない。

どうやらこの一瞬で深い眠りについてしまったらしい。それくらい疲れが溜まっていたということだろう。


「…ベッドに運んでもいいか?」


さすがに朝までここで眠らせるわけにもいかず、だからと言って部屋に返すことも出来ないため、念の為声をかけてみる。が、案の定返事はない。

名残惜しさを感じながら繋がれている手を解き、起こさないようにそっと彼女を抱き抱えた。異性を抱えるのはもちろん初めてで、自然と顔が熱くなるのを感じた。花梨が眠っていてよかったと、思わず安堵の息を吐いた。

そのままゆっくりと花梨をベッドに運ぶ。揺れが気になるのか、彼女は微かに眉をひそめた。起きてしまうんじゃないかとドキドキしたが、なんとかベッドの上に彼女を寝かせることに成功した。


──それにしても、本当に無防備だな。


ベッドの縁に腰掛け、彼女の横髪に触れる。

頼むから、他の男の前でこんな姿を見せるなよ。


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