つれない男女のウラの顔
「ガードが固いっていうのは、嘘だったのか…?」
横髪に触れていた手を、今度は頬に移動させる。躊躇いながらも指先で白い肌に触れると、その柔らかさに息を呑んだ。
眠っている間にこんなことをされているなんて思わないだろうな。バレたらさすがに気持ち悪がられそうだ。もう口をきいてもらえなくなったりして。
うん、これ以上はダメだ。煩悩を捨てろ。
「…おやすみ」
自分を抑えられなくなる前に、逃げるようにベッドから離れようとした──その時だった。
「…成瀬さん」
不意に名前を呼ばれ、息を呑んだ。しかもそれだけでなく、俺が離れるのを制すように、静かに伸びてきた手が俺の服を掴んだ。
もしかして起きていた?触っていたのがバレたか?
焦りで冷や汗が滲み、心臓が激しく波打つ。
何を言われるのだろうかと身構える。
…けれど、次に聞こえてきたのは小さな寝息。
「……花梨?」
やはり返事はなく、彼女は俺の服を掴んだまま眠っていた。
なんだこれ。どうして俺の名前を呼ぶんだよ。
まるで「離れるな」と言っているかのような行動に、抑えていた感情が一気に込み上げてくる。
触れたいのは俺の方なのに、なんで煽るかな。
「…引き止めたのはそっちだからな」
独り言のように言い訳をした俺は、花梨の手を俺の服からそっと離すと、彼女の隣に静かに横になった。一応俺たちの間には隙間があるが、シングルサイズのベッドに大人がふたり並ぶとかなり狭い。
「花梨…」
いま目を開けられても困るのだが、無意識に名前を呼んだ。触れたい気持ちを抑え、至近距離で寝顔を見つめる。
ただの寝顔に癒されることってあるんだな。と、にやけそうになる口元を押さえながら、心の中で呟いた。
明日は何をしよう。
せっかく彼女を独り占め出来るチャンスだ。純粋に楽しませてあげたい。
だけどやっぱり“男に慣れるため”を理由にして、もう少し近付きたいのが本音。この“練習”を利用することを決めていたから。
明日は楽しみだが、同時に終わった時のことを考えると苦しくなる。花梨のことをずっと近くで見ていたい。
────明日が終わらなければいいのにな。