つれない男女のウラの顔

成瀬さんって綺麗な肌してる。男の人でもお手入れってするのかな。
睫毛も長いし、鼻も高くて寝顔まで整ってるって凄い。

くっついたら起きるだろうか。ちょっと触れるだけなら大丈夫そう?あ、髪ならバレないかも。


ゆっくりと手を伸ばし、成瀬さんの黒髪にそっと触れる。意外と柔らかい髪質にびっくりして、思わず「わぁ」と声が出た。

物凄くレアな体験。成瀬さんは長身だから、普通に生活していたら絶対に触れることなんて出来ないもの。

あ、少し寝癖がついてる。成瀬さんの寝癖って初めて見たかも。職場でのクールな彼からは全く想像出来ない姿。なんだか少し、可愛く思えてしまう。

あーやばい。幸せ過ぎて顔がニヤける。
男性に対してこんな感情を抱く日がくるなんて思わなかった。

髪に触れても全く起きる気配のない成瀬さん。調子に乗った私は、もう少し大胆に彼の頭をぽんぽんと撫でてみた。…うん、やっぱり柔らかくて触り心地がいい。


「成瀬さん…」


髪に触れながら、愛しい名前を思わず口にする。と……


「………なんだ」

「…………………………え?」


返ってくるはずのない声が聞こえてきて、ピタリと手を止めた。


ちょ、え、待って───今喋った?


「あ、あれ…?」

「………おはよう」

「おは…ようございます………」


嘘でしょ。よく見たら成瀬さんの目が薄ら開いているではないか。


「……いつから起きてました…?」

「…今、頭に何か当たった感覚がして、それで……」

「……………………」


さいっっっあくだ!!

髪に触れたのがバレてしまった。完全に調子に乗った。絶対に引かれた。


消 え た い 。
< 169 / 314 >

この作品をシェア

pagetop