つれない男女のウラの顔
「俺の呼びかけにも応じないくらい爆睡していた」
爆睡していたのなら、寝言も大丈夫…かな。むしろイビキをかいていなかったか心配だ。てか私ったら人の家でどれだけ深い眠りについてるの。相手が彼氏ならまだしも、会社の上司なのに。
「すみません…一応昼寝もしたのに、睡魔に勝てませんでした…」
「疲れが溜まっていたんだろ。よく休めたか?」
「はい、それはもうぐっすりと眠れました」
「よかった。顔色も良さそうだ」
成瀬さんが優しく目を細めるから、思わず見惚れてしまった。この距離でその笑顔は殺傷能力が高すぎる。吸い込まれるように、目が離せない。
おまけに私の身体の心配までしてくれるなんて優しすぎるでしょ。
「昨夜あまり特訓出来なかった分、今日は頑張ろうな」
私的には、成瀬さんと手を繋げただけでも充分だったのに。今日は昨夜以上にもっと色々な幸せが待ち受けているのかと思うと、今からドキドキしてしまう。こんな状態で最後まで心臓が持つのだろうか。
「今から準備しても、まだ時間はたっぷりあるから」
時間はたっぷりある…成瀬さんからしたらそうかもしれないけど、私にとっては今日しかない。成瀬さんを独り占め出来るのは、今日だけなのだ。
そう思うと、始まる前から寂しくて、この布団から出ることさえ嫌になった。
このまま時間が止まればいいのに…。
“ひとりが楽なんだよ。誰かと一緒に住むのも考えられない”
いや、ダメだ。成瀬さんはひとりの時間を大切にしたい人だから。
ふと彼の言葉を思い出した私は、名残惜しさを感じつつ上体を起こした。突然起き上がった私を見て、成瀬さんが目を丸くしている。
「一度部屋に戻って準備をしてきますね」
私がそう言うと、「わかった」と返した成瀬さんの瞳が、ふと寂しげに揺れた気がした。