つれない男女のウラの顔
episode1
──夏は苦手だ。年々高くなる気温に、ほとほとうんざりしている。
「花梨さん、この2つのロットの検査をお願いできますか?」
「はい、分かりました」
「…あと、ついでと言ってはなんだけど、今週末に製造部の独身組と品管の独身組で海に行く計画をしていて…もしよかったら花梨さんも一緒にどうかな。バーベキューやスイカ割りなんかも予定してて…」
「すみません、海は苦手なので、皆さんで楽しんできてください」
「…そっか、こっちこそ仕事中にごめんなさいね。では」
眉を下げて踵を返したのは、歳が3つ上の井上主任。いつも周りを気遣っている、上品でおしとやかな女性の上司だ。
そんな彼女の誘いを断るのは何度目だろう。数ヶ月前も、ウインタースポーツは苦手だと言ってスノーボードの誘いを断った。
その前は腰痛と嘘をついてボウリングの誘いを断り、もっと前は人前で歌うのが苦手だからとカラオケを断った。あとは釣りにゴルフの打ちっぱなしに、それから…。
とりあえず、そろそろ“苦手”を理由にするのは苦しくなってきた。断る度に、胸が痛む。
だって本当は海もスポーツも苦手な訳じゃないから。
本気で苦手なのは、人と関わること。
ただそれだけだ。