つれない男女のウラの顔
「あ、あの、これつまらない物ですがっ!」
ドッドッと心臓が波打つ。声も微かに上擦ってしまった。全く平常心を保てない。
とりあえず先日バッタリ会ったことはスルーして、一刻も早くここから立ち去ろうと、持ってきた粗品を半ば押し付けるように彼の方へ突き出した。
「…ご丁寧にどうも」
テンパる私とは反対に、成瀬さんはどこまでも落ち着いている。
そんな彼が静かに声を放ちながら、男らしい大きな手をこちらに伸ばしてきたから、思わず息を呑んだ。
男らしいといっても、指は細長く、とても綺麗な手をしていて、それがあのイケメン上司成瀬さんの手だと思うと、更に緊張が増した。
早く彼の手に粗品が渡るように、思い切って一歩踏み出す──と。
「ぅ、わっ」
玄関の微かな段差に躓き、目の前にいる成瀬さんの胸元に顔からダイブしてしまった。
せっかく綺麗にラッピングしてもらった粗品は、ドンと大きな音を立てて床に落ちた。一方私は、成瀬さんが受け止めてくれたことによりなんとか転けずに済んだ。
だけど、ハッと我に返るとゼロ距離に成瀬さんがいて、息が止まるかと思った。しかも意外と筋肉質で逞しい体つきをしているのがダイレクトに伝わってくる。
もはやこれ、ハグですやん。
「(うわああああーっ!)」
慌てて体を離したけれど、頭の中は大パニック。顔が熱いどころか全身冷や汗。いや、もはや滝汗。
ただでさえコミュ障で、しかも男性が苦手なのに。こんな所で躓いてかっこ悪いところを見せただけでなく、思い切りダイブして受け止めてもらうなんて恥ずかし過ぎる。これ、絶対に赤面は避けられないやつ。
ああ、こんな時私も彼のような冷静な人間だったらよかったのに。不意打ちにも動揺しない、鋼の心臓があればよかったのに。
「ご、ごめんなさ……」
思いもよらぬ展開に頭は真っ白。半泣き状態でペコペコと頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
──けれど、言い切る前に思わず口を噤んだのは、ふとあるものを見てしまったから。
無愛想で塩対応。いつだって冷静で、研究にしか興味のない変態。
私が密かに憧れを抱いていた成瀬さんが、こんなことで取り乱すはずがない。
──そう、取り乱すはずがないのに。
成瀬さん、その顔ってもしかして…。