つれない男女のウラの顔
マイコは「なーんだ」と呟くと、背もたれに思いっきり背を預けて再びビールジョッキを煽った。
「なんかおかしいと思ってたのよね。どうしてただの隣人がそこまで親切にしてくれるのかって。結局向こうも京香に気があるってことだよ」
「彼には助けてもらってばかりで、私は好かれるようなことは何もしてないよ。だから妹みたいな感覚なんだと…」
「いやいや、普通好きでもない女にキスまでする?女に興味がないって言ってんのに」
「でも頼んだのは私だし」
「頼まれたら誰にでもしちゃうような男なの?それはそれでどうなの。女に興味がない男を装って、本当はただの女好きだったり?完全に騙されてるじゃん」
「そ、そんな人ではないと思う。本当に優しい人なんだよ…」
「優しさでキスするような男でしょ?そんな男やめときなよ」
そうなのかな。成瀬さんって実は女好き?今までの話は全部嘘?あの赤くなった顔も?
私はそうは思わない。それに会社での彼は女性を寄せ付けないことで有名だ。塩対応で無愛想。それはマイコも知っている。相手は成瀬さんだって言ったら、マイコは納得してくれるだろうか。
いやでも、相手が私と同じ秘密を持っていることを言ってしまった。ここで成瀬さんの名前を出したら、彼の秘密をマイコにバラしてしまうことになる。
「……私は、彼は女好きなんかじゃないって信じたい…」
「だったら、その人は京香のことが好きなんだと思うよ。部屋に泊めたのも、夜遅くに両親のところへ連れて行ってくれたのも、デートの練習も、全部京香だったからだよ」
「そう、なのかな…」
「京香が思い出作りにデートに誘ったのと同じで、彼も京香とデートがしたくて、練習相手を引き受けた。ふたりとも恋愛に不慣れで、自然と遠回りしてるってことね」