つれない男女のウラの顔

成瀬さんが私を?考えたこともなかった。手の届かない人だと思っていたから。

私に向けられた優しい目も、触れた熱も、全部私だったから?本当にそうだとしたら嬉しい。

あれ、でも…


「匠海くんと上手くいってほしいって言われた…」


“…成瀬さんは、私と匠海くんが上手くいけばいいと思ってます…よね?”
“……そうだな。それで花梨も、花梨のご両親も幸せになれるのなら”


確かにあの日、彼はそう言った。背中を押されて、酷く傷付いたのを覚えている。


「京香、あなたはどこまで鈍感なの。そんなの嘘に決まってんじゃない」

「嘘…?」

「男ってね、格好付けたい生き物なのよ。ダメだ行くな!俺にしろよ!って簡単に言えてたら、あなた達は疾うに付き合ってるわ」

「そんな都合のいい話…」

「ていうか、好きな女に“他の男とデートすることになったの”って報告された彼が気の毒ね」

「ゔっ…」

「そんなこと言われて、まさか自分のことが好きだなんて思わないだろうし。彼も「頑張って」しか言えないでしょ」


仰る通りかもしれない。

成瀬さんの本当の気持ちは分からないけれど、確かにあの状況では私を応援するしかなかったのかも。

てことは、成瀬さんは本当に私を…?そんな奇跡みたいな話があるのだろうか。でも、そうだといいなって思っている自分がいる。


「恋って難しい…どうすればいいのか全然わかんない…」

「大丈夫、それが普通よ。恋ってのは客観視出来なくなるものだから」


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