つれない男女のウラの顔
「匠海くんとのデートは断った方がいいよね」
「なんで?行けばいいじゃない」
サラッと意外な言葉を返されて、思わずキョトンとする私に、マイコは続けて口を開いた。
「その隣人さんと付き合うことになったなら断るべきだと思うけど、そもそもその幼なじみの“デート”って、本物のデートじゃないでしょ?盛り上がってるお母さんに、その幼なじみ君が合わせてあげたってだけで、普通に会ってお話して終わりそうじゃない」
“おばさんのためにも、とりあえず話を合わせて”
“すぐそこにおばさんがいるの知ってるだろ。ここで断られたら、俺かっこ悪いじゃん”
“飯食いに行くだけでもいいからさ”
「確かに…匠海くんもそんなことを言ってた気がする…」
「ほらね。むしろ心を開ける友人が少ない京香の、唯一の幼なじみでしょ。大事にしなさい。なんなら恋愛相談してみるもいいかもね。男目線の話が聞けるし、京香のご両親のことも知ってるから、いいアドバイスがもらえるかも」
「なるほど」
「考え過ぎちゃだめよ。何事も経験だと思って。京香は明らかに経験不足過ぎるから」
「ですよね、すみません…」
「まぁでも、もしかしたら今日、若しくは明日に、その隣人さんに告白してOK貰えるかもしれないし?そしたら断らなきゃだけどねー」
「えっ、今日か明日?!さすがに心の準備が…」
「きっと両思いだもの、心の準備なんかしなくても大丈夫よ。ドーンと彼の胸に飛び込みなさい」
ドーンと胸に…引越し初日を思い出す。引越し早々、彼には恥ずかしいたころを見せてしまったけれど、でもあの事件のお陰で彼の秘密を知ることが出来た。
あの出来事がなければ、ベランダで私から話しかけることはなかったと思う。
あの日からまだ数週間しか経っていないけれど、彼の存在がまさかここまで大きくなるなんて思わなかったな。