つれない男女のウラの顔
「こ、こんばんは…突然すみません」
「花梨?玄関から来るのは珍しいな。どうした、なにかあったか?」
「いや、あの…ちょっとお渡ししたい物がありまして」
こうして対面して会話をするのはデート以来だ。成瀬さんの顔を見た瞬間、一気に心拍数が上がった。
成瀬さんの目が優しく細められる。職場では見ることが出来ない、穏やかな表情。その目は“私”だから向けてくれるの?と思ってしまうのは、マイコが絶対に両思いだと言ったからだ。
ただ、私を「花梨」と呼んだことが寂しい。またあの日のように「京香」と呼んでもらいたい。
「渡したい物?」
怪訝な表情をする成瀬さんに、背中に隠しているプレゼントを渡そうと一歩踏み出す。まるでバレンタインのチョコを渡す前の学生みたいに。
もう少し大人っぽいプレゼントの方が良かっただろうかと、今になって不安になってくる。
「あ、あの、日頃の感謝の気持ちを込めて…」
成瀬さんのために作りました。そう言いかけたところで、突如無機質な着信音が鳴り響いた。
どうやら鳴っているのは成瀬さんのスマホみたいで、私は差し出そうとしていたプレゼントを再び背中に隠した。
「成瀬さん、電話が…」
登録していない番号からの着信なのだろうか、成瀬さんはスマホの画面を見つめながら「誰だ?」とボソッと呟く。
「どうぞ出てください。急ぎの用だといけないので」
「…悪い、ちょっと待ってて」
成瀬さんはそう言うと、通話ボタンをタップして受話口を耳に近付けた。