つれない男女のウラの顔
「これを…」
ラッピングしたお菓子をおずおずと差し出すと、成瀬さんは少し驚いたような表情をしつつも受け取ってくれた。透明のラッピング袋を覗いて、中のお菓子をまじまじと見つめている。
「これは花梨の手作り?」
「は、はい。お口に合うか分かりませんが…」
「凄いな。今日はずっとこれを?」
「はい…たくさん作り過ぎてしまったので、受け取ってもらえると助かります」
ばか。違うでしょ。
成瀬さんのために作ったって、なんで言えないの。
“正直言うと、彼女が転勤になると聞いた時、どこかホッとしてる自分がいた。やっぱり俺には、そういうのは向いてないんだよ”
こんな時に、どうしてあの日の言葉を思い出してしまったのだろう。
ついさっきまで告白する勢いだったのに。今は、気持ちを伝えても迷惑になるだけなんじゃないかと、怯んでいる自分がいる。
だって、恋愛に興味がないってハッキリ言われたし。ひとりが楽だって言ってたし。その方が仕事にも集中出来るって…。
もし断られたら、きっと今までのようにベランダで会えなくなるし、会社で成瀬さんのことを見かける度に、胸が苦しくなるだろう。
あぁ、もう。本当に意気地無し。こんな自分が嫌になる。
「…そうか。ありがとう、あとでゆっくりいただくよ」
優しく目を細めた成瀬さんに、きゅうっと胸が締め付けられた。
その笑顔は、私だけに向けてほしい。ほかの人には見せないで。
「あの、成瀬さん…」
「うん?」
「あ…明日…」
明日、一ノ瀬さんに会うの?もし告白されたら、何て返事をするの?
咄嗟に声を掛けてみたものの、告白も出来ない私に、そんなことを聞く勇気はなくて。
「…明日、上手くいくことを願っていてください」
「…当たり前だろ。協力したんだから」
こんなことが言いたかったわけじゃないのに───本当に私はバカだ。