つれない男女のウラの顔





『京香、11時半に駅前で待ち合わせでいいか?』

「うん、大丈夫だよ。もう準備は出来てるから、いつでも出れるし。ていうか、わざわざこっちの駅まで来てもらわなくても私が行くのに」

『いいんだよ、俺がそっちに行きたいだけだから。京香がどんなところに住んでるのか知りたいし。あ、そうだ。おばさんから色々預かったからついでに渡すな』

「ありがとう。荷物増やしちゃってごめんね」

『全然。おばさん、相変わらず娘思いで優しい人だよな。この一週間、顔を合わせる度に「京香のことよろしく」って言われたぞ』

「またお母さんってば…ほんとごめん」

『おばさんらしくていいじゃん。てか京香、緊張してるだろ』

「…少しね」

『俺が“デート”って言ったからか?悪かったな、おばさんの前だから格好つけたくて。普通に飯食うだけでいいから、軽い気持ちで来てよ』

「うん…分かった」

『じゃあまたあとで』



匠海くんとのデート当日。寝不足のまま朝を迎えた。

正直言うと、いまは匠海くんと会うようなメンタルではない。匠海くんとのデートがどうとかではなくて、昨日の自分の不甲斐なさに呆れ返っているから。
オマケに、これから成瀬さんと一ノ瀬さんが会うのかと思うと、何もやる気が起きない。朝から溜息しか出ていない。


「…行こっかな」


母親が匠海くんに私宛ての荷物を預けているみたいだから、さすがにドタキャンするわけにもいかず。このまま部屋にいると気が滅入りそうだったため、早めに支度を済ませ、先に駅へ向かって匠海くんを待つことにした。



───けれど、この選択は間違いだったのだろうか。





「あなた、こないだ成瀬くんと一緒にいた子?」


駅前のベンチに座ってスマホを見ていると、ふいに声を掛けられた。成瀬くん(・・・・)の言葉に反応した私は、弾かれたように顔を上げた。

そこにいたのは、いま一番会いたくない人物、一ノ瀬さんだった。
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