つれない男女のウラの顔
「あの人が女性と一緒にいるなんて珍しいと思ってたけど、そういうことだったんだ」
どういう意味だろう。
独り言のように呟いた彼女に、恐る恐る視線を戻す。
「あなた、成瀬くんと同じなんだね」
「……」
「だから成瀬くんはあなたに構うんだ。女性を避けていた彼だけど、あなたにはきっと親近感が沸いたのね」
もしかしてこの赤くなった顔のことを言ってるのだろうか。そうか、一ノ瀬さんも彼の秘密を知っているんだ。
それもそうか。一度は付き合おうとしていた相手だ。そこを理解している人でないと、一緒にいようとは思えないだろうから。
成瀬さんが私に構ってくれるのは、同じ秘密を持っているから……確かにそうなのかもしれない。成瀬さんは優しい人だから、こんな私を放っておけなかったのかも。
何となくわかっていたけど、人に言われると余計に傷付く。彼女の言葉が突き刺さる。
「彼から私の話を聞いているかどうかは分からないけど、彼は私の両親が経営する飲食店の常連客でね、そこから親しくなって」
知ってるよ。全部聞いたから。そこで仲を深めたことも、あなたが成瀬さんに告白したことも。
「でも私が店員でなかったら、ここまで近付けなかったと思う。それくらい、普段は無愛想で口数も少なくて、一切女性を寄せ付けない人だったから」
それも知ってる。職場での彼もそうだから。
「でも本当は、心があたたかい人だって知ってる。心を許した友人といる彼は、穏やかに笑うしよく喋る。仕事が好きで、優しくて、スマートで、いつも冷静で考えが大人。そんな彼に自然と惹かれていった。彼が私に笑顔を向けてくれた時のこと、今でも鮮明に覚えてる」
「……」
「そして、今でも彼が好き。離れている間も、ずっと彼のことが忘れられなかった」