つれない男女のウラの顔
人が行き交う駅前で、彼女は躊躇なく言い切った。私の目を真っ直ぐ見据えながら。
ああ、この人も本気なんだ。
私もこのくらい素直に言えたらと、彼女を羨ましく思ってしまう。彼女のようなハッキリした性格の人でないと、成瀬さんとは釣り合わないのではないかと。
成瀬さんと一ノ瀬さんの関係は、何年も前から続いている。でも私と成瀬さんが言葉を交わすようになったのは、ほんの数週間前だ。
そんな彼女に、どうやって勝てる?彼女は4年間、一途に彼を思っていたのに。
………いや待てよ。本当に一途だった?
「…あなたの話は、成瀬さんから聞きました」
やっと言葉を発した私に、一ノ瀬さんは表情を変えず「そう」と呟く。
「成瀬さんへの気持ちは、本物かもしれないですけど…でも離れている間、彼氏がいましたよね?」
“友人から聞いた話によると、一ノ瀬は転勤してすぐに、向こうで彼氏が出来たらしいから”
あの時、成瀬さんは確かにそう言っていた。ベランダでの会話だったから、その時彼がどんな表情をしていたかは分からないけど。きっと彼は、この話を友人から聞いた時、傷付いたんじゃないかと思う。
「…成瀬くん、知ってたんだ」
一ノ瀬さんの表情が引き攣る。どうやら彼に知られたくない情報だったらしい。
一ノ瀬さんはバツが悪そうに私から視線を逸らすと、小さな溜息を漏らした。