つれない男女のウラの顔
「確かに彼氏はいたわ。転勤先で、寂しくて…自分の弱さのせいだって自覚してる。そこに気持ちなんてなかったから。でも彼を忘れられなくて、その人とはすぐに別れたわ。むしろそれで彼への気持ちが強くなった」
「…でも成瀬さんからしたら、あなたに「ずっと忘れられなかった」って言われても、説得力を感じないと思います」
「確かにそうかもしれないわね。でも私だって、簡単な気持ちで再び彼に会いに来たわけじゃない。4年間、仕事で成果を出せば彼に認めてもらえると思って頑張った。いま胸を張って彼に会えるのは、この4年間は無駄じゃなかったって思えるからで…」
彼女の言いたいことも分かる気がするけど、なぜか腑に落ちない。さっきからこの人は、自分のことばかりな気がするから。
そこに成瀬さんの気持ちは?彼がどんな気持ちで一ノ瀬さんを送り出したと思ってるの?
成瀬さんは一ノ瀬さんとの未来を前向きに考えてた。でもそれをなかったことにしたのは他の誰でもなく一ノ瀬さんだ。
「そんなに好きなら、遠距離でもいいから付き合ってほしいって言えばよかったじゃないですか」
「私だってそうしたかったわよ。だから転勤の話も彼に一番にした。でも彼は…」
彼女の声が尻すぼみになる。一度口を止めた彼女は、静かに唇を噛み締めた。
「…引き止めてほしかったとは言わない。でも、少しくらい寂しがってくれるかなって思った。“待ってる”って言葉でもよかった。だけど彼は、いつものように淡々と“よかったな”って言ったの。さすがに心が折れたわ」
ああ、そうか。一ノ瀬さんは知らないんだ。
成瀬さんが、一ノ瀬さんの告白を受けようとしていたことを。
一ノ瀬さんは彼の気持ちに気付いてなかったんだ。だから…。