つれない男女のウラの顔
“男ってね、格好付けたい生き物なのよ。ダメだ行くな!俺にしろよ!って簡単に言えてたら、あなた達は疾うに付き合ってるわ”
そこでふと、マイコの言葉を思い出した。
なんだ、そういうことか。成瀬さんは言えなかったんだ。というより、自分の気持ちより彼女の気持ちを優先しただけだったんだ。
成瀬さんはいつも冷静で、感情をあまり表に出さない。でもその分、たくさん我慢をしてきたのかもしれない。
彼女を尊敬していたからこそ、何も言わず背中を押したんだ。
「成瀬さんは優しい人です。何も言わず送り出したのは、あなたを心から応援していたからで、本当は引き止めたかったのだと思います」
「…彼の全てを理解しているような言い方ね。付き合いも浅いのに」
まだ全然理解なんてできていない。もしちゃんと彼のことを分かっていたら、私は昨夜、成瀬さんにあんなこと言わなかったから。
“好きな女に“他の男とデートすることになったの”って報告された彼が気の毒ね。そんなこと言われて、まさか自分のことが好きだなんて思わないだろうし。彼も「頑張って」しか言えないでしょ”
匠海くんとのデートの話を相談した時、成瀬さんは背中を押してくれた。でもそれは本心じゃないって、マイコが教えてくれたのに。
“…明日、上手くいくことを願っていてください”
“…当たり前だろ。協力したんだから”
成瀬さんはいつだって私のことを考えてくれていただけなのに。私はまた、同じことをしてしまったんだ。
どうして気付けなかったのだろう。昨日のあの時間に戻りたい。
──今すぐ、成瀬さんに会いたい。
「まあでも、それは昔の話だから。大事なのは今でしょ?私は今から、彼に気持ちを伝えに行く」
「……」
「彼の前で顔を赤くしてるだけじゃ何も伝わらないわよ。もしも彼が私を選んでも恨まないでね」
成瀬さんが一ノ瀬さんを選ぶ…?嫌だ。考えただけで苦しい。
彼が一ノ瀬さんを選ぶ可能性はないとは言いきれない。今すぐでなくても、彼女がアピールし続けたら気持ちが変わるかもしれない。
このまま一ノ瀬さんを成瀬さんのところへ行かせていいの?
「…あの、」
「──京香?」
一ノ瀬さんに話しかけようとしたその時、突如耳に届いた懐かしい声に息を呑んだ。
声のした方へ視線を向けると、昔と変わらない爽やかな笑顔で「やっぱり京香だ」と紡いだ人物と視線が重なった。
「…匠海くん……」
こちらに向かって歩いてくる匠海くんを見つめたまま固まっていると、今度は目の前の彼女が口を開いた。
「じゃあ私は行くわね、京香さん」