つれない男女のウラの顔
遂にこの日がきた。花梨が幼なじみと会う日だ。
昨夜、花梨が部屋に来た時、なぜか一瞬“もしかして幼なじみとの予定がなくなった?”と変な期待を抱いた。
けど実際は…。
“…明日、上手くいくことを願っていてください”
行かないでくれ───あともう少しで声になりそうだったが、結局引き止めることが出来なかった。真っ直ぐ俺を見据える彼女を見て、つい背中を押してしまった。
テーブルの上、綺麗にラッピングされたお菓子が視界に入り、思わず溜息が出る。恐らくこれは、その幼なじみにあげるお菓子の余りものなのだろう。たくさん作り過ぎたと言っていたから。
やっぱ張り切ってたんだな、今日のデート。
その幼なじみも花梨に思いを寄せているのだろうか。花梨のご両親のお気に入りのようだし、案外あっさり上手くいったりして。
それを邪魔する権利が、俺にあるか?
「……だっさ」
それでも花梨のことが頭から離れない。この期に及んで、誰のものにもならないでほしいと思っている。
今ならまだ間に合うだろうか。いや、もう幼なじみのところへ向かっただろう。
花梨の連絡先も知らないし、どうしようもない。てか、一応デートまでしたのにお互いの連絡先を知らないなんておかしな話だ。
その点、その幼なじみは花梨のことを何でも知っているのだろうな。そんな男に、勝ち目はあるのか…?
未だ手をつけられていない、手作りのお菓子に手を伸ばす。袋の中からハート型のクッキーをそっと取り出し、それをまじまじと見つめた。
「…器用だな」
まるで売り物のように綺麗に焼かれたクッキーからは、美味しそうな匂いがする。
花梨がこれを作っている姿を想像して、思わずにやけそうになった。けど、ハートの型を使っているから笑えない。同じものを幼なじみにもあげるのかと思うと、胸が苦しい。
クッキーをひと口食べて「うま」と思わず声が出た。今すぐこの感想を伝えたいのに、花梨はいま、他の男のところにいる。