つれない男女のウラの顔

このままでは一日中花梨のことだけ考えて過ごしてしまいそうだ。気晴らしにどこかへ出掛けようかと、重い腰をあげようとしたその時、テーブルの上でスマホが着信音を鳴らした。

画面に表示されているのは、見知らぬ番号。……いや、既視感がある。


「…はい」


出ようか迷ったが、無視するとしつこくかかってきそうな気がして、渋々通話ボタンをタップした。


『成瀬くん?』


受話口から聞こえたのは、やはり彼女の声だった。思わず溜息が出そうになるのを、なんとか耐えた。


「…何か用か?」

『いまアパートの前にいるの。出てこれる?』

「……」


そういえば、昨夜一ノ瀬は電話で『明日会いに行く』って言ったっけ。あの時は目の前に花梨がいたのもあり、その電話を適当に気に流してしまったが…どうやら本当に会いに来たらしい。

正直言うと、花梨のことで頭がいっぱいで一ノ瀬から電話があったことすら忘れていた。

今の俺は、一ノ瀬に構う余裕なんて残っていない。


「突然来られても困る。帰ってくれないか」

『なにそれ。昨日約束したじゃない』

「俺は約束した覚えはない」


一方的に電話を切ったくせに、約束ってなんだ。こんなにも自分勝手なやつだっただろうか。


一ノ瀬は昔からハッキリした性格だった。サバサバしていて、自分の意見は躊躇なく伝える。

4年前の俺は、周りを引っ張る力がある年上の彼女を尊敬していた。その頃の俺はまだ当然平社員で、だからこそ彼女のそういう部分に惹かれていたのだと思う。

でも、今は──…。


「何か用があるならこのまま電話で伝えてほしい」

『…電話じゃなくて、ちゃんと会ってゆっくり話し合った方がいいと思う』

「話し合うことなんて何もないと思うけど」

『私は成瀬くんに伝えたいことがいっぱいある。あの時伝えられなかった気持ちとか、全部聞いてほしい』

「こないだも言ったと思うが、今更昔の話を出されても困る。もうあの時とは、何もかもが違うから」

『…ほんとそっけないね。まぁ成瀬くんはそういう人だったけど。無愛想で、女を寄せ付けない。でも私の前では笑ってくれてた。この4年の間に、私は相手にされない側の女になっちゃった?』


そっけない…そうだよ、俺は元々そういう人間だから。女は苦手だ。関わっていいことなんて何もない。だからずっと避けて生きてきた。俺は一生女と関わらないでいいと思ってた。


なのに今、花梨に会いたくて仕方がない。花梨だけは隣にいてほしい。

異性に対してこんなにも求めてしまうのは、花梨が初めてなんだ。



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