つれない男女のウラの顔
『知ってるよ。あの子、あなたと同じ赤面症でしょ』
一瞬何が起きているのか分からなかった。だって、なぜ一ノ瀬がそのことを知っているんだ。
『成瀬くんのそれって本当に恋心なの?同じコンプレックスを持ってる彼女に、仲間意識が芽生えただけじゃないの?』
頭が追いつかず何も返せないでいると、一ノ瀬は続けて口を開いた。捲し立てるような言い方に、思わず苛立ちを覚える。
「どうして彼女のことを…」
『あの子、あまり目を見て話そうとしないし、なよなよしてない?仕事が出来るようには見えないし、あなたに合ってると思えない。仕事の面でも私の方が理解してあげられると…』
「彼女のことをどこまで知っているのかは知らないが、憶測だけで悪く言うのはやめてくれないか」
花梨は自分でもコミュ障だと言っているが、一見クールに見えてくだらないギャグも言うし、表情がころころ変わって見ていて面白い。危なっかしいところもあるが、彼女は決して悪い人間ではない。
それなのに、俺に合うとか合わないとか、他人に決められるのは納得がいかない。咄嗟に言い返すと、一ノ瀬は『…そうね、悪かったわ』と謝罪した。
「仲間意識…は、確かに最初はあったかもしれない。でも今は、彼女の性格を知った上で…」
『それって、肯定したと捉えていいの?本気で彼女のことが好きなの?』
「…ああ、そうだよ」
『……』
「彼女以外の女に興味はない」
もし花梨のそばにいられないのなら、一生独身のままでいい───って、全部本人に伝えろって話だが。
素直に認めると、受話口の向こうで一ノ瀬が『そっか』と呟いたのが聞こえた。
『…でもその子、他の男と会ってたわよ』
「知ってるよ」
そうか、一ノ瀬はその現場を見てきたのか。どうして彼女の名前や秘密まで知っているのかは分からないが、恐らくここへ来る前に花梨を目撃したのだろう。
『はあ?知ってるって…だったら何でそこで呑気にしてるの。引き止めたりはしなかったの?』
「彼女がそうしたいなら、俺に引き止める権利は…」
『待ってなにそれ。もしかして、そうやって見守るのがカッコイイと思ってる?背中を押す俺は大人の余裕があって最高って、自惚れちゃってる?まさかあの時も…そっか、そういうことね』