つれない男女のウラの顔
『まぁあなた達がどうなろうが私には関係ないことだけど、このままじゃ一生結ばれないでしょうね。それとも、彼女への気持ちはその程度?だったら、その子なんかやめて私にしてよ』
「…花梨以外は、考えられない」
『それをどうして本人に言わないのよ。てか、なんで私がこんなこと言わなきゃいけないの。会ってもくれないし、こんなことをするためにここに来たわけじゃないのに』
今もアパートの前で俺を待っているのかと思うと、さすがに罪悪感に襲われる。まぁ、そもそも約束はしていないのだが。
『ねえ、彼女のどこがそんなにいいの』
「……」
『ここまで話したくせにそこは黙るの?納得いく回答を得られたら、潔く諦めて帰るけど』
どこがいい…?あまり具体的に考えたことはなかったな。
目を閉じて、花梨を思い浮かべる。ふとあの“練習”を思い出すと「旭さん」と呼ぶ花梨が頭に浮かんで、思わず心臓が跳ねた。
「…笑顔が、かわいい」
『ありきたりね』
「たまに見せる赤い顔も」
『かわいいって?小学生じゃないんだから、もっと他にあるでしょ』
「トマトを大事に育てているところとか」
『農家の子なの?』
「雷が嫌いなところとか」
『そんな女いっぱいいるわよ』
「コミュ障で一匹狼で、くだらないギャグも言うし、たまに抜けてる」
『…え、それ大丈夫なの?』
「でも家族思いの優しいやつで、隣にいると落ち着く。気付けば彼女のことばかり考えていて、触れたいと思ったのも、守ってあげたいと思ったのも彼女が初めてだ」
『……なにそれ、ベタ惚れじゃん』
もういいわ、お腹いっぱい。一ノ瀬はそう言って自嘲気味に笑った。