つれない男女のウラの顔
episode12
「久しぶり、京香」
片方の手に大きな紙袋を提げた匠海くんは、私の前に立つと「待たせてごめんな」とニカッと笑った。
匠海くんと会うのは何年ぶりだろうか。前回会った時より、少し大人びたような気もする。心做しか体がガッチリした気がするし、ほんのり焼けた肌に短髪がよく似合ってる。
「全然待ってないよ。てかほんと久しぶりだね。元気だった?」
「うん、相変わらずな。よく食ってよく寝てる」
「そっか、元気そうで何よりだよ」
匠海くんと会話をしながら、チラッと一ノ瀬さんの背中を見た。既にだいぶ遠くに行ってしまっている。
アパートに着いたら、成瀬さんと…。
すぐに告白するのかな。成瀬さんの部屋に入られても嫌だけど、あの車に乗られるのも嫌だな。ああ、だめだ。目の前に匠海くんがいるのに、あのふたりが気になって仕方がない。
「あ、そうだ。これおばさんから。食料がいっぱい入ってるぞ」
匠海くんが中身を見せるように紙袋を開く。中を覗き込むと、地元のお菓子やインスタント食品が入っていた。
「すごい量…。ごめんね、重かったでしょ」
「全然。でも京香には重いかもしれないから、とりあえず俺が持っておいて最後に渡すな」
匠海くんは昔から気が利く人だった。それは今も変わっていない。コミュ障の私と違って、誰に対しても優しいし気が使える。
だから当然よくモテた。寄ってくる女子はたくさんいるのに、幼なじみだからという理由で私のことも気にかけてくれていた。
匠海くんには感謝してもしきれない。それなのに、母のわがままにも付き合ってくれるのだから、彼には頭が上がらない。
だから今日は匠海くんの好きなものをご馳走しようと思って来た。
だけど…私はこのまま彼女を追わなくていいのだろうか。