つれない男女のウラの顔
匠海くんの隣を歩いて喫茶店へ向かう。匠海くんは私より身長が高いけど、成瀬さんほどではない。それがなぜか少しさみしく感じた。
男性と一緒に歩くことが滅多にないからか、変に力が入ってしまう。相手が匠海くんだから安心感はあるけど、それでも油断すると緊張で赤面しそうだ。
一ノ瀬さんは、もう成瀬さんと会っただろうか。どうしよう、そわそわして落ち着かない。
一ノ瀬さんとデートをして、頬を赤く染めていたら…想像しただけで苦しい。
「あ、ここだよ」
案内したお店は駅から歩いて5分ほどのところにあるため、あっという間に着いた。看板や建物には年季が入っているけれど、店内はアンティーク調でオシャレだ。
常連客が多く、昔から愛されているお店らしい。といっても、私はまだ越してきて間もないから、このお店のことはベランダで成瀬さんと会話していた時に聞いた。
「おしゃれな店だな。俺場違いじゃない?大丈夫?」
「ふふ、全然大丈夫だよ」
珍しく弱音を吐きながらキョロキョロする匠海くんに、思わず笑ってしまった。
「やっと笑った」
「え?」
「京香、ずっと顔引き攣ってたから。なんか安心した」
うそ、引き攣ってた?
顔に出ないようにとかなり注意していたはずなのに。付き合いが長いだけあって、匠海くんにはバレてしまうのだろうか。やっぱりマスクをつけておけばよかった。
私達の会話を遮るように、水とおしぼりを持った店員がテーブルにやって来る。匠海くんは「どうも」と頭を下げ、メニューを一瞥したあと、私に視線を戻した。
「…ごめんね、少し緊張してて」
「そうだよな。まぁ俺も緊張してるけど」
「え、嘘でしょ?匠海くんはいつもと変わらない気が…」
「んなことねえよ。俺だって緊張するよ。京香に話したいこともあるし」
「話したいこと…?」
「うん、大事な話」
匠海くんが急に真剣な顔で私を見つめてくるから、思わず息を呑んだ。
なにこの空気。大事な話って何だろう。