つれない男女のウラの顔

「とりあえず何食う?」


匠海くんはそう言うと、表情がパッと柔らかくなった。空気が和んだことにほっとしたけれど、さっきのは何だったのだろう。


「エビフライ定食も美味しそうだな」


でもやっぱりオムライスかな。と、メニューを選んでいる彼をぼんやりと見つめながら、頭に浮かぶのはやっぱり成瀬さんのことだった。

成瀬さんと食べた海鮮丼、美味しかったな。また食べに行きたいな。


「京香はどれにする?」

「私は…ナポリタンにしようかな」


少しでも早く食べ終われそうなメニューを選んでいる自分が、少し嫌になった。

匠海くんは本当に良い人だ。マイコの言うように、大事にしなきゃいけない人。

だけどタイミングが悪すぎた。一刻も早く成瀬さんのもとへ向かいたいという気持ちが、そうさせてしまう。


匠海くんは悩んだ末にオムライスを頼んでいた。コミュ障な私は店員を呼ぶのすら苦手だけど、匠海くんは何の躊躇もなく声をかけ、私の分まで注文してくれた。


「そういえばこの間、アイツがさ…」


さっそく“大事な話”が始まるのかと思ったけれど、匠海くんの口から出たのは共通の友人の話題だった。

同級生が結婚したとか、子供が生まれたとか、どこに引っ越したとか。

最初は身構えていた私だけど、匠海くんのお陰で次第に緊張は解けていった。

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