つれない男女のウラの顔
「そういえば京香、先週実家に帰ってたんだろ?」
恐らくそれは、成瀬さんが実家まで送ってくれた日のことだ。
母から聞いたのだろうか。帰ったと言ってもほんの少しの時間だったけど。
「うん、お父さんのことが心配で、つい…」
「おばさん喜んでたぞ。京香が会いにきてくれたんだって。でもせっかく帰ったなら俺にも声掛けてくれたらよかったのに」
「ごめんね、夜遅かったから。次の日も仕事だったから、すぐに帰ったし」
それに、実際はそんな状況ではなかったし。
私も母も、泣きすぎて目は腫れていた。人に会えるような顔ではなかった。
「次に帰った時は…連絡するね」
“また何かあったら言って。いつでも連れて来てあげるから”
実家からの帰り道、成瀬さんは私にそう言ってくれた。もしもまた成瀬さんが連れて帰ってくれるのなら、匠海くんには連絡出来ないだろう。
だけどもし、このまま成瀬さんと一ノ瀬さんが結ばれてしまったら…。って、またあのふたりのことを考えてしまった。
だめだ。今は匠海くんに集中しないと。
「てかお母さんってば、匠海くんに話し掛けすぎだよね。ごめんねほんと。忙しい時はスルーしてくれたらいいからね」
話をはぐらかすようにそう言った私は、先程出されたお冷を喉に流し込んだ。
「大丈夫、俺はおばさんと話すの楽しくて好きだから」
「でも今日ここに来てくれたのも、お母さんが無理言ったからだよね?私達が幼い頃に“結婚しよう”って約束してたこと、まさかお母さんが覚えてたなんて…」
母は少し、匠海くんの優しさに甘え過ぎだ。あとでちゃんと注意して…
「違うよ」
匠海くんの表情が、再び変わった。真剣な目で真っ直ぐ見据えられ、思わず息を呑んだ。
「俺は無理やりここに来たわけじゃない」