つれない男女のウラの顔
そんなある日のことだった。
普段は職場から家の往復しかしていないが、つい先日、数少ない友人に誘われ飲みに行くことになった。場所は半年ほど前にオープンしたばかりの肉バルで、どうやらこの店の料理は全て美味いらしい。
その店内で、まさか同じ会社の人間に出くわすとは思わなかった。
「あ、成瀬さんお疲れ様です」
スルーしてくれればいいものを、躊躇なく声をかけられて一気にテンションが下がった。まぁもともと低い方だが。
「経理の八田です」
いちいち名乗らなくても知っている。コミュ力が高いのが印象的で、俺の苦手なタイプだから。
「こっちは品管の花梨です」
花梨ももちろん認識している。だってある意味有名だし。
品管の花梨といえば、誰からの誘いも必ず断るクールな女。ガードが固く、話しかけてもすぐに逃げられるのだと、同じ部署の後輩が言っていた。
この時も、俺と目が合ったのにすぐに逸らされた。それどころか、俺に話しかけた八田を見て明らかに表情を引き攣らせていた。
どうやら俺と会話するのがかなり嫌らしい。まあこっちも迷惑しているのだが。
ただ、以前から花梨にはなぜか親近感のようなものが湧いていた。
周りを遮断する感じが、なんとなく自分と似ているからなのだろうか。
世の中の全ての人間が、花梨くらいドライならいいのに。
それにしても、他の奴からの誘いは全て断るのに、八田とはこうして食事に来るんだな。組み合わせが意外だ。まあ俺にとってはどうでもいいことだが。
そんなことを考えていた矢先、花梨が次に見せた表情に、思わず目を見張った。