つれない男女のウラの顔
ここが外だということも忘れ、気付けば彼女を抱き締めていた。気持ちが抑えきれなかった。花梨を前にすると、どうしても衝動的になってしまう。
彼女の匂いが鼻腔をくすぐると、愛しいという感情が一気に込み上げてきた。花梨が俺の腕の中にいるだけで心が満たされた。それだけでなく、俺の背中に手を回してくれたことが嬉しかった。
どうしてここに?幼なじみはどうした?
先ほど一ノ瀬は、花梨とその幼なじみが一緒にいるところを目撃したと言っていた。それなのにデートをしなかったってどういう意味だ?
訊きたいことは山ほどあった。けれど、花梨の口から“好きな人がいる”という言葉が出た瞬間、全てがどうでもよくなった。
好きな人…その言葉にショックを受けたのも束の間。花梨の口から出てくるのは、どこかで聞いたことがあるような内容ばかりだった。
その人物を、俺はよく知っている。
「…成瀬さん、私はあなたのことが…」
彼女が最後に言おうとした言葉を遮るように、咄嗟にその唇を塞いだ。どうしても俺が先に言いたかった。
ずっと伝えられなかった言葉をやっと口にした時、花梨は目を見開いたあと、涙を流しながら「本当ですか…?」と小さく放った。
次から次へと溢れ出る涙を見て、もっと早くこの気持ちを伝えればよかったと後悔した。頬を赤く染めた彼女の華奢な体を、力いっぱい抱き締めた。
「成瀬さんの彼女にしてもらえますか?」
応えるようにキスをすると、花梨は顔を綻ばせながら「ありがとうございます」と囁いた。
「ありがとうは、こっちのセリフだ」
今までは異性に全く興味がなかった。面倒な生き物だと思ってた。“彼女が欲しい”という友人の気持ちを理解しようと思ったこともなかった。
だけど今なら分かる。
幸せって、こういうことなんだと。