つれない男女のウラの顔
episode13
叶わないと思ってた。報われない恋だと決めつけていた。
だけど私は成瀬さんの彼女になれた。本当に夢みたいだ。正直、まだあまり実感がわかないけど。
「旭さん…っ、」
彼の部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、壁に追い詰められたかと思うと、抵抗する暇もなくキスを落とされた。
それは一度だけではなく、何度も。
“もう二度と、他の男とデートなんかしないでほしい”
これって嫉妬なのかな。そうだとしたら嬉しい。嬉しいけど…
「一回って言ったじゃないですか…!」
「うん、ごめん。一回じゃ足りなかった」
成瀬さんってもしかしてキス魔なのだろうか。
まだ慣れないキスは息の仕方が分からなくて、苦しさのあまり逃げようとしても、私の後頭部を押さえる成瀬さんの大きな手がそれを許してはくれなかった。
こんな甘い彼を私は知らない。でもその熱に触れれば触れるほど、成瀬さんの彼女だという実感が湧いてくる。
「顔、真っ赤だな」
「旭さんのせいですよ…」
おかしいな。余裕がないって言う割にはめちゃくちゃ余裕そうなんですけど。私ばっかり必死で、なんかずるい。
「うん、ごめん。着替えてくるから、適当に座って待っててくれるか」
「…はい、わかりました」
熱くなった顔を手でパタパタと扇ぎながら、言われた通りソファに腰を下ろした。
1週間ぶりの成瀬さんの部屋は、相変わらず綺麗に片付いていた。大好きな匂いに、気持ちが落ち着いていく。
1週間前に来た時はまだデートごっこだった。でも、いまは…。
「…本当に彼女になれたんだ」
それにしても、成瀬さんの「京香」呼びが最強過ぎて顔がニヤける。私も勢いで名前呼びしてるけど、良かったのだろうか。
「京香は着替えなくて大丈夫か?」
「あ、はい。旭さんのお陰で私は全く雨に濡れなかったので」
肩にタオルをかけ、ラフな格好で戻ってきた彼は、そのまま私の隣に座った。肩がぶつかる距離に、思わず心臓が跳ねた。