つれない男女のウラの顔
成瀬さんのいる左側が熱い。鳴り止まない心臓を押さえながら、何気なくテーブルの上に視線を向けた。
すると、ふとある物が視界に入り、思わずそれを手に取った。
「旭さん、これ…」
見覚えのあるラッピング袋。中にはまだ、カップケーキとクッキーが入っている。だけど一度開封した形跡があり、よく見るとクッキーの枚数が少し減っていた。
「もしかして、お口に合いませんでしたか?」
何を渡せばいいのか分からず甘いものにしてみたけれど、あまり手を付けられていないみたいだし、他のものにすれば方がよかったかも。と、落ち込んでいると、成瀬さんはすかさず「いや、違う」と否定した。
「すごく美味しかったよ」
「本当ですか?気を遣わなくても、本当のことを仰っていただけたら今後のためになるし…」
「そうじゃなくて…勿体ないから残しているだけだ」
唇を尖らせながら小声で紡いだ成瀬さん。顔が少し赤くなって、恥ずかしいのか私から視線を逸らしている。
「勿体ないって…これくらいならいつでも作ってお渡ししますよ」
「…今度は、俺のためだけに作ってくれるか?」
「え?」
元々これは成瀬さんのためだけに作ったものだ。なのにどうしてそんなこと…。
“たくさん作り過ぎてしまったので、受け取ってもらえると助かります”
もしかして、昨日のあの言葉のせい?
「あの、実はこれ旭さんのために作ったんです」
手に持っていたお菓子を、昨日と同じように再び成瀬さんに差し出した。彼は目を丸くして「え?」と小さく零しながらも、それを受け取った。
「日頃の感謝の気持ちを込めて、どうしても旭さんに何かプレゼントしたくて。そしてこれを渡すついでに自分の気持ちを伝える気でいました。でもそのタイミングで一ノ瀬さんから電話が入ったので、怯んじゃって。今じゃないのかもって、怖くなって…」
「知らなかった。てっきり幼なじみのために作ったのかと…」
「匠海くんには渡していません。“たくさん作り過ぎた”なんて嘘です。あの時は咄嗟にそう言ってしまいましたが、旭さんに食べてもらいたくて、旭さんのことを考えながら作りました」