つれない男女のウラの顔
言葉って難しい。こうして簡単に誤解を招いてしまうのだから。
成瀬さんは納得したように「そうだったのか」と呟くと、徐にラッピングを解いた。袋からカップケーキを取り出しそれをひと口食べると「めちゃくちゃうまい。ありがとな」と目を細めた。
「京香が俺のことを思いながら作ってくれていたなんて知らなかった。勿体ないけど、また作ってもらえるなら今から全部いただくよ」
「全部はさすがに食べ過ぎでは…」
「なら、京香も食べるか?」
「あ、いえ、私の部屋にまだ余った分があるので。こんなことなら匠海くんにも分けておけばよかっ…」
喋っている途中で唇を塞がれた。一瞬だけだったけれど、私の体はあっという間に熱を帯びた。
ほんのり甘い味がしたのは、カップケーキのせいだろうか。それにしても、やはり成瀬さんはキスが好きみたいだ。隙あらばキスを……って。
「…あれ、なんか怒ってます…?」
なぜか成瀬さんの視線が鋭い。キスしてきたくらいだから、甘い空気なのかと思ったけれど…おかしいな、その表情からは1ミリも甘さを感じない。
「さっきから、匠海くん匠海くんってうるさくないか」
「えっ、そうですかね…すみません…」
そんなに言ったかな。まだ2回ほどしか言っていない気がするけど。
「その男と、随分親しいんだな」
「…一応、幼なじみなので」
「………それもそうか」
はぁ、と小さく溜息を吐いた彼は、再びカップケーキをひと口食べた。カップケーキを見ていた切れ長の目が、再び私を捉える。
「京香にとって、その幼なじみが大切な存在であることは理解しているんだ。でも、今日はその名前を聞きたくない」
「…旭さん…」
「…って、俺は何を言ってんだろうな」
もしかしてこれも嫉妬?成瀬さんって意外と嫉妬深い?
うわあ、ニヤける。