つれない男女のウラの顔
「それから京香の噂は何となく耳にしていた。クールでガードが固く、誘っても必ず断られるのだと。人に壁を作るところが俺と似ているからか、勝手に親近感が湧いていた」
「そうだったんですか…?」
「しかも俺と同じで顔が赤くなる。それを知った時から、京香のことが気になっていたのかもしれない」
成瀬さんは私の方に体を向けると、私の頬に手を添え、親指でそっと撫でた。あっという間に熱を帯びる頬を見て、成瀬さんが優しく目を細める。
「でもなかなかこの気持ちを認められなかったのは、向き合うのが怖かったのかもしれないな」
「怖い…?」
「昔から異性が苦手だったから。見た目だけで判断して近付いてきた奴らが、勝手に期待して、失望する。上辺だけの奴らにうんざりしていた。女はみんな、そういう生き物だと思ってた。完璧を求められるのは、時にプレッシャーになる」
毎年、新入社員が成瀬さんに夢中になり騒ぐけど、1、2ヶ月したら静かになる。きっとそれと同じだ。
成瀬さんは私から見ても、見た目も中身も完璧だと思う。でも成瀬さんはこの整った容姿のせいで、色々苦労してきたのだろう。
だから成瀬さんは、私のドジで間抜けな部分を見ても否定せずに受け入れてくれたのかもしれない。私はそんな成瀬さんに、どれほど救われたか。
「なぁ京香」
成瀬さんの熱を孕んだ瞳と視線が絡んだ。あまりにも真っ直ぐ見据えてくるから、目を逸らすことが出来ない。
「俺は周りが思っているほど完璧な男ではない。何でもスマートにこなせると思われがちだが、これから京香には格好悪いところもたくさん見せると思う。それでも一緒にいてくれるか?」
いつも冷静な成瀬さんでも、不安になったりするんだ。 そこさえも愛しいと思えるのは、私が完全に惚れているからだろう。
「言ったじゃないですか。私しか知らない旭さんの姿をもっと見せてほしいって」