つれない男女のウラの顔
episode14
最後までできなかった…そのことが、ずっと胸の奥で引っかかっている。
なにか理由があるなら教えてください。と、喉元まで出かかった言葉は飲み込んだ。
付き合ってすぐにがっつく女だと思われるのも嫌だったし、何よりもし“勃たない”のが理由だった時、プライドを傷付けてしまうような気がしたから。
“これから京香には格好悪いところもたくさん見せると思う。それでも一緒にいてくれるか?”
あの時の言葉はそういう意味だったのだろうか。だとしたら、私が出来ることは受け入れることのみ。成瀬さんと一緒にいたいから。一緒にいられることが幸せだから。
もしかすると最初ってこんなものなのかもしれないし。むしろ付き合ってすぐにやっちゃう方がレアだったり?私の経験値が低すぎるあまりに勝手な誤解が生まれているのかも。
「花梨さん、具合でも悪いの?今日は朝からずっと浮かない顔してる」
ふいに声を掛けてきたのは井上主任だった。私が朝から溜息ばかり吐いていることに気付いていたのだろう。
私ったら、仕事中に成瀬さんとのカラダの問題のことばかり考えてた。仕事に集中しなきゃ。
「少し考え事をしていて…でも大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
マスクを上げて顔を隠しながら席を立つ。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」と井上主任に告げた私は、逃げるように部屋を出た。
「あら奇遇ね、京香さん」
俯いたままトイレを目指して廊下を歩いていると、前方から声がして弾かれたように顔を上げた。
「マイコさん、どうしてここに」
「これから銀行に行かなきゃいけなくてね。てかあれからどうなったの?何か進展はあった?幼なじみとのデートはどうだった?」