つれない男女のウラの顔
「変な小細工なんかせずに真っ直ぐぶつかりなさい。京香はそのピュアな感じが可愛いんだから」
「ピュア…」
「私が男だったら、顔を赤くした京香に見つめられただけでチュウしたくなるわ」
「え、そうなの?」
だから成瀬さんはキスをたくさんしてくれるのかな。
成瀬さんのキス、心地よくて好きなんだよな。優しくて、丁寧で、でもたまに強引で。
…あ、だめだ。思い出しただけで体が熱くなる。
「…なに顔赤くしてんの」
昨日、最後まではできなかったけど、あの後もキスはたくさんした。そのことを思い出して、つい顔を赤くしてしまった私に、マイコは「さすがにこんなところではチュウしないわよ」と一蹴した。
「そんなことより、京香はビアガーデンどうする?」
ビアガーデン…そうだ、確か毎年この時期に同期の皆でビアガーデンに行くんだ。
ずっと人と関わることを避けてきた私は、一度も参加をしたことがないけれど、マイコは毎年参加しているどころか、当たり前のように幹事をしている。
今までの私なら迷うことなく断っていた。
でもどうしてだろう。今年は参加してみようかなと思っている自分がいる。
この心境の変化は、きっと成瀬さんの影響だ。彼に出会って考え方が変わったから。
相変わらずコミュ障であることには間違いないけど、すぐに赤面してしまうこのコンプレックスも、彼のお陰で前より好きになった。だからなのか、新しいことにも挑戦してみたいと思ってしまう。
私は今まで逃げてばかりだった。経験する前に諦めて、たくさん損をしてきたんじゃないかと思う。
男性が苦手だったはずなのに、成瀬さんに出会って、恋っていいなって思えたように。違う世界を見てみたいと思ってしまう。
「むしゃくしゃしてるみたいだし、気晴らしにどう?って、まあ無理はしなくてもいいんだけど」
「…参加、してみようかな」
「え、ほんと?」
私の返事が意外だったのか、マイコは目を丸くして「奇跡が起きたわ」と呟いた。