つれない男女のウラの顔
「誘っておいてなんだけど、一体どうしたの?あの“どんな誘いも断るコミュ障京香ちゃん”が、まさか大勢の飲み会に参加するなんて」
「…今の自分を変えたいなと思いまして」
「色仕掛けはどうかと思うけど、変わろうとすることは悪いことじゃないわ。むしろ今までがコミュ障過ぎたから、それはいい変化よ」
まるで母親のような言葉をかけてきたマイコは、満面の笑みで私の頭をぽんぽんと撫でた。
「恋が京香を変えさせたのかしらね。うん、偉い偉い」
私からしたら、毎回幹事を引き受けるマイコの方が偉いと思う。彼女はとにかく面倒見がよくて器がデカい。本当に尊敬する。
「詳細が決まったらまたお知らせするね。もしそれまでに気が変わったら教えて」
「うん、わかった」
「じゃあ私はそろそろ行くから。恋バナはまたゆっくり聞かせてね」
私に手を振りながら去っていくマイコに、私も小さく手を振った。
マイコっていつ見ても元気だから、少しだけその元気を分けてもらえた気がする。
とりあえず精力剤や下着作戦は一旦なしにしよう。
「あ、花梨さん」
再びトイレに向かおうとしたところで、また別の人に声を掛けられた。声がした方へ視線を向けると、そこにいたのは同期の浮気くんだった。
「おつかれー」
「お疲れ様…」
一応同期だから他の男性社員に比べたら接しやすいけど、やっぱり少し緊張する。といっても、浮気くんはたくさんいる同期の中でも話しやすい方だけど。
いつも飄々としていて、のんびりとした口調が特徴的。アッシュ系の色に染められた髪にはゆるっとしたパーマがかかっていて、全体的にルーズな感じ。誰に対しても砕けた感じだからか、先輩には生意気だって怒られることもあるらしい。
「井上主任て、いま品管にいる?」
「あ、うん、そのはずだけど…」
そう答えた直後、少し離れたところにいる人物が視界に入った。
端正な顔立ちは誰よりも目を引く。吸い込まれるように目が離せない。
見間違えるはずがない。あれは成瀬さんだ。