つれない男女のウラの顔
途端に心拍数が上がった。一瞬で心を奪われるから不思議だ。
周りの女性社員も成瀬さんをチラチラと見てる。そんな人気者の彼と付き合っているなんて、未だに信じられない。
「あ、そうだ。花梨さんは今年のビアガーデンどうすんの?」
成瀬さんに気を取られていると、隣にいた浮気くんに話し掛けられてハッとした。
咄嗟に「え?」と返すと、浮気くんは「やっぱ今年も不参加?」と尋ねてきた。
そうしている間にも、成瀬さんがどんどん近付いてくる。
すれ違うタイミングで、お疲れ様ですって声をかけるべき?それとも軽く頭を下げるだけの方がいいのかな。
緊張する。今までとは違う緊張感だ。それにしても職場のクールな成瀬さんもやっぱりかっこいい。
「花梨さん?」
「あ、えっと…今年は参加しようかなって思ったり」
「え、まじで?」
やはり意外だったのか、浮気くんもマイコと同じように目を大きく開いて驚いた表情を見せた。
「来てくれんの?すげえレアじゃん。多分不参加なんだろうなーと思いながら訊いたから超意外。今まで1回も参加したことないよな?」
「うん…ないかも」
「ラッキー。俺も参加するから一緒に飲もうぜー」
いえーい、と手をグーにして、その手をこちらに差し出してきた浮気くん。一瞬殴られるのかと思って咄嗟に身構えた。けれどすぐに「グータッチじゃん?」と言われ、キョトンとする。
「グータッチ…?」
「知らねえの?グーとグーでハイタッチみたいな感じで、コツンってぶつけんの」
こ、コツン?!
いや無理でしょう。成瀬さんとは手を繋いだりキスしたり出来るようになったけど、他の人と触れ合うのはまだ恥ずかしい。絶対に赤面する。
このコンプレックスは成瀬さんのお陰でだいぶ好きにはなったけど、いまここで見せる勇気はない。
そもそもグータッチって、日常的に行うものなの?私は初めてなんだけど。
陰キャな私と対照的に、浮気くん陽キャ過ぎでしょ。