つれない男女のウラの顔

「はい、コツンして」


浮気くんがグーにした手を近付けてくるから、思わず顔が引き攣った。

さすがに断りきれず仕方なく拳を握り、その手をおずおずと近付けると、浮気くんは「いえーい」と言いながら私の手に自分の手をコツンとぶつけた。

恥ずかしい…陽キャ怖い…。

どんなに恥ずかしくても成瀬さんの手には触れたいと思うのに、他の人はまだ少し抵抗がある。不意打ちじゃない分マシだけど、顔も若干火照ってるし。

ていうか、今はグーパンチなんてしている場合じゃない。少しずつ近付いてきている成瀬さんのことが気になる。

彼は私の存在に気付いているのだろうか。周りには他の社員もいるし………って。


「……っ!」


浮気くんに向けていた視線を再び成瀬さんのいる方へ戻すと、その瞬間バチッと思いっきり目が合った。

彼との距離はおよそ5メートル。思わず動揺する私とは反対に、成瀬さんの表情は全く変わらない。何を考えているのかを読み取るのも難しい。


「てか花梨さんて酒飲めんの?」

「あ…うん、少しなら」

「そうなんだ?俺もこう見えてあんま飲めないから親近感。一緒にカクテル飲んじゃう?あー花梨さんと飲むの楽しみー」



浮気くんが隣でなにか喋っているけど、私はずっと成瀬さんの方を見ていた。

あと数歩ですれ違う。近付くにつれ鼓動が早くなる。

社内恋愛って、こんなにもドキドキするものなんだ。いつか慣れる日がくるのだろうか。

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