つれない男女のウラの顔
とにかくほとぼりが冷めるまでは成瀬さんに会いたくない───そう思う反面で、彼のことが少し気になっていた。
だって私と同じ裏の顔を持っているのだ。気にならないわけがない。
それどころか勝手に仲間意識が湧いて、心のどこかで「嬉しい」と思ってしまう自分がいる。
無愛想で冷たい人だと思っていたけど、やっぱり私と同じでただのコミュ障なのかもしれない。シャイっていう噂もあながち間違いじゃないのかも。
モテるイメージだったけど、女慣れもしてなさそう。なんて、男慣れしていない私が偉そうに言える立場じゃないけど。
会いたくない気持ちと、話をしてみたい気持ちで戦っている。
心の整理がついたら、勇気を出して話しかけてみようかな。世間話のノリで「赤面するの、しんどいですよね」って。塩対応で有名な彼だから、無視されるだろうか。
「…キミ、成瀬さんの顔にそっくりね」
夜の8時。ベランダで栽培しているプチトマトに向かって話しかけた。前のアパートに住んでいた時から大切に育てているプチトマトは、赤くて小さな実がたくさん付いている。
その中でも、真っ赤で綺麗な形をしているトマトを見て、自然と成瀬さんの顔を思い出していた。
あの日は咄嗟に“リンゴ”って言っちゃったけど、トマトでも良かったかも。
成瀬さん、いま部屋にいるのかな。自炊とかするのだろうか。実は毎日のように外食してたりして。
ボウルを片手に、熟れたトマトを丁寧に収穫していく。その作業を行いながら隣の部屋の方をチラチラ確認していると、ふいに聞こえてきたのは「ガラガラ」という窓を開ける音だった。
その音が、たった今私が見ていた部屋の方から鳴ったものだと分かった瞬間、ドキッと大きく心臓が跳ねた。
静かな足音が響く。
やばい、本当に成瀬さんが出てきた。