つれない男女のウラの顔
“もう二度と、他の男とデートなんかしないでほしい”
そういえば昨日、成瀬さんは私にそう言ったけど、飲み会に行くなとは言われていない。男の人とふたりきりってわけじゃないし、飲み会を制限するような人だとも思えない。
「同期会なら大丈夫だと思うれけど…」
「そうなんだ?ずっと飲み会に参加しなかったのは、彼氏がソクバッキーだからなのかと思ってた」
「そ…そくばっきー?」
なんかよく分かんないけど、参加しなかったのはただ私がコミュ障だからなんだけどな。
浮気くんって絡めば絡むほど不思議な人だ。成瀬さんとは全然違う。もはや宇宙人と話している気分になる。
この緩い感じが彼のいいところでもあって親しみやすく感じるのだろうけど、ちょっと疲れてきた。
「ごめん、私トイレに行くから」
「おっけー。ビアガーデンで会えるの楽しみにしてる」
じゃあなーと手を振る彼と別れて、慌ててトイレに駆け込んだ。
短時間だったけど、異性と話すのはかなり疲れた。浮気くんだからまだ話しやすかったけど、ビアガーデンが少し怖くなってきたな。
マイコ以外の同期とは必要最低限の会話しかしたことがない。飲み会となると世間話をしなくてはならない。
コミュ障の私に会話の引き出しなんてないし、だからといって聞き上手なわけでもないし。プチトマトの栽培の話なんかされても迷惑だろうし、これはなかなかハードルが高いぞ。
「はぁ」
疲れのせいか深いため息が出る。顔の赤みは引いたみたいだけど、まだもう少しだけここにいよう。品管に戻ったら、また浮気くんに会いそうな気もするし。
それにしても、成瀬さんの手が私に触れたのって絶対わざとだよね。そんなことされたら今すぐ会いたくなっちゃうじゃん。
昨日最後までできなかったせいかな。欲求が爆発していて、成瀬さんに触れたくて仕方がない。あの胸に飛び込みたい。彼の匂いに包まれたい。
昨日の余韻が、まだ残っているみたい。