つれない男女のウラの顔

目頭が熱い。微かに震える声で「私も大好きです」と伝えると、成瀬さんは私の頬にキスを落としたあと、強く抱き締めてくれた。

彼の熱が私を安心させてくれる。恐怖心が消えていく。


「京香」


低く掠れた声を耳元で感じながら、そっと目を閉じた。心臓が激しく音を立てる中、じわじわと押し入ってくる彼を受け入れる。


「…ふっ……んんっ」


想像を超える質量に、くぐもった声が漏れた──その直後。


「ぃっ……!」


突如裂けるような痛みに襲われ、咄嗟に成瀬さんの胸を押した。それに気付いた彼が「痛いのか?」とすかさず尋ねる。


「すみません…急に痛みが…」

「大丈夫か?一旦やめようか」

「ま、待って…ください」


すぐに距離を取ろうとした彼を慌てて止めた。痛みはあるけど、やめてほしいとは思わなかった。


「もう少し…続けてください…」

「…でも」

「いつかは乗り越えなければいけないことなので…だったら、今がいいです」


ぽつりぽつりと言葉を紡いで、必死に懇願する。
すると成瀬さんは、痛みで顔を歪める私の頭を優しく撫でた。


「…無理、してないか?」

「大丈夫…です」

「本当にいいんだな?」

「はい…」

「…わかった。でも我慢できなくなったらすぐに教えて。それか、俺を突き飛ばして」


彼の言葉に小さく頷くと、どちらからともなく唇を重ねた。痛みを忘れるくらい、頭の中を成瀬さんでいっぱいにしたかった。

程なくして再び彼が中にはいってくるのを感じると、途端に鋭い痛みに襲われ、思わず息を止めた。身体に力が入り、目尻に涙が浮かぶ。


「京香」

「大丈夫…なので、やめないで…」


痛みに耐えている間、成瀬さんは何度も私の名前を呼んでくれた。緊張と痛みで意識が遠のきそうだったけど、その度に彼の声が私を引き戻してくれた。

目尻にたまった涙を舐めとるように、時折キスを落とされる。短く息をする私に、成瀬さんは「だいぶ入ったよ」と耳元で囁く。


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