つれない男女のウラの顔
「花梨さん、案の定断ったね」
「製造部の何人かが花梨さんをご指名してんだけどなー」
「仕方ないよ。花梨さんクールだし、みんなで遊ぶっていうノリが苦手なのかも」
少し離れたところから、コソコソと話し声が聞こえてくる。わざと私に聞こえるように話しているのかは分からないけれど、私は私で仕事をしているように見せかけてつい聞き耳を立ててしまう。
「まぁお酒入るとはしゃぐ人もいるしね。気持ちは分かる。私も渡辺くんが参加しないなら行かないし」
「ちょっと、そんなさみしいこと言わないでよ。まぁ私も出来ることなら成瀬さんに参加してもらいたかったけど」
「彼こそ無理無理。そもそも製造部じゃないし」
私の所属する品質管理課は圧倒的に女性が多い。そのせいか、耳に入ってくる会話も自然とこういう色恋話が多くなる。従業員数の多い会社だからか、社内恋愛の話もよく耳にする。
みんな楽しそうだな、なんて密かに思いつつ、先ほど井上主任に渡された製品をデスクに置き、検査を始める。黙々と仕事に取り組むフリをしながら、彼女達の話の続きを聞くためこっそりと耳を傾ける。
「それにしても花梨さんって、一匹狼なところがなんかかっこいいよね。マスクのせいで表情が読み取れなくて近寄りがたいけど、裏表がなさそうっていうか…」
「誰に対してもあんな感じだから、あざとさがなくて好感持てるよね。仕事も着々とこなすしさ」
「マスク無しでも綺麗な顔してるし、そりゃ製造部の人間もお近付きになりたくなるよ」
…裏表がない、か。
それが本当の話なら良かったんだけど。