つれない男女のウラの顔

自分にこんな欲があるとは思わなかった。少し前までの俺は、異性を見て興奮することなんてなかったからだ。

京香の身体は俺を簡単に刺激した。彼女の赤く染まった頬も、熱を帯びた綺麗な身体も、額に滲む汗も、静かに零れる涙も全てが愛しかった。

上手く出来たかと問われたら、首を縦に振ることはできないが。終わったあとに俺の腕の中で「旭さん…大好きです」とひと言放った京香が、幸せそうに眠りについたのを見て、胸がいっぱいになった。

無理をさせてごめんな、と心の中で呟きながら「俺もだ」と囁いて彼女の額に口付ける。きっと彼女の耳には届かなかっただろうが、小さな寝息を立てながら顔を綻ばせた寝顔が、今も頭から離れない。

二輪の言う通り、“彼女”という存在は悪くないと思う。むしろ、あの日からずっと心は満たされている。

…いや、満たされているのは、彼女と出会ってからずっとなのかもしれない。京香に“秘密”を知られた日から、俺の世界は変わった。もちろん良い方向に。


兎にも角にも、ひとつ言えるのはアレ(・・)を用意しておいてよかったということ。
前日に途中でやめてしまったことが、京香を傷付けていたとは知らず。あの日、この男に変な相談を持ちかけたせいで、危うく3ヶ月我慢するところだった。


「ほんと感慨深いぜー。でもお前はまだ未熟者だからな。先輩のこの俺が何でも教えてやる。遠慮なく頼ってくれ」

「いや、遠慮しておく」


頼る先はこの男ではない。今回のような誤解が生まれないよう、今後は必ず本人と話し合うと決めた。


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