つれない男女のウラの顔

「それで、ご両親にはちゃんと報告したの?」

「うん…今日のお昼に連絡があったから、その時についでに。一応喜んでくれたけど、匠海くんとのことはすごく残念がってた」

「そうでしょうね。幼なじみ君はご両親のお気に入りだったんでしょ?でも彼氏が出来たことには安心したでしょうね」

「うん、安心してた。それに匠海くんも良い人だけど、成瀬さんも良い人だから。お母さん達もすぐに認めてくれると思うの」

「はい、すぐ惚気けるー」


惚気けたつもりはないのに、にやにやしながら此方に視線を向けてくるマイコを見て、思わず顔が熱くなる。

そうか、これが惚気けるってやつなのか。


「成瀬さんとお付き合いしていることは、会社の人達には秘密にしておいた方がいいのよね?」

「秘密というか…とりあえずはマイコ以外の人に言うつもりないよ。成瀬さんは別にバレてもいいって言ってたけど、自分から広める必要もないかと思うし。自然とバレるならいいけど」

「まぁそれもそうか。いちいち詮索されるのも面倒だもんね。でもこのビッグカップル誕生のニュースを誰にも言えないのは歯がゆいわ」

「ビッグカップルだなんて大袈裟な…。でもこうして自分の気持ちに素直になれたのも、彼と付き合えたのもマイコのお陰だと思うから。これからも何かあった時はマイコに相談していい?」

「何言ってるの。彼とお付き合い出来たのは京香が成長したからでしょ。まぁでも、私は一生京香の教育係でいるつもりだから、相談ならいつでも受けるわ」


マイコと話し込んでいる間に、どうやらお開きの時間になったらしい。突如ぬるっと現れた浮気くんに「ふたりは二次会行く?」と問われ、迷うことなく首を横に振った。二次会に参加するほどの体力は残っていないからだ。

だけど初めて参加する同期会は意外と楽しかった。最初は怯えていたけど、マイコがずっと傍にいてくれたお陰か落ち着いた時間を過ごせたから。

ただひとつ驚いたのは、途中から石田さんが参加したということ。どうやら他の同期が彼を誘ったらしい。石田さんって人気者なんだなあと感心しつつ、あの事件のことがあるため彼の姿を見つけた時は思わず身構えてしまった。

けれどそれは向こうも同じだったようで、石田さんは私と目が合った瞬間怯えたような表情を見せた。その後も一切私に近付こうとしなかったから、これは二輪さん効果なのだろう。


「──あの、花梨さん」


そう思った矢先、突如後ろから声を掛けられ弾かれたように振り返ると、そこに立っていた人物に思わず目を見張った。


「い…石田…さん…」

< 306 / 314 >

この作品をシェア

pagetop