つれない男女のウラの顔
「本来ならこの会にも参加するべきじゃなかったんだけど、参加する代わりに、花梨さんに他の男が近付かないように見張っとけって、二輪さんに言われて」
「そ、そうだったんですか?」
知らなかった。まさか成瀬さん達がそんなことをしていたなんて。
もしかして、この会を何事もなく落ち着いて過ごせたのは、マイコだけじゃなく石田さんのお陰だったのだろうか。
ほんと、彼の仕事の早さにはいつも感心する。
「花梨さん、愛されてるね。男の僕から見ても成瀬さんは良い男だと思うし、お似合いのカップルだよ」
「ありがとう…ございます」
お似合いという言葉は素直に嬉しかった。たまに釣り合っていないのではないかと不安になることがあるから。
石田さんの言葉に、思わず顔が綻ぶ。
「わあ、花梨さんのそういう笑顔、初めて見たかも。めちゃくちゃかわ…い……な、なんでもない、僕はもう行くよ。時間を取らせてごめんね」
石田さんはそう言うと、逃げるように去っていった。何だか掴めない人だ。
でも、あの事件から石田さんに対するイメージはあまり良いものではなかったけど、今ので少し変わった気がする。上手く付き合えば悪い人ではないのかも。
やっぱり、勇気を出してこの会に参加してよかった。
“花梨さん、愛されてるね”
石田さんの言葉を思い出して、また口元が緩む。そっか、私って愛されてるのか。
「なにニヤニヤしてんの?」
いつの間にか戻ってきていたマイコに突っ込まれ、慌てて真顔に戻す。マイコはそんな私を見て怪訝な表情をしながら「とりあえず出ようか」と続けた。
「二次会組はこっちに集合~」
店の前で浮気くんが手を挙げて誘導している。その様子を少し離れていたところから見ていると、ふいに浮気くんと視線が重なった。
「花梨さん、ほんとに帰っちゃうんだ?」
「う、うん。お疲れ様でした」
「えーせっかくだから二次会も参加すればいいのに~」
「じゃ、じゃあ次回は参加しようかな…?」
「まぁ明日も仕事だし仕方ないかぁ。次は絶対参加だぞ。約束~」
分かりやすく肩を落とした浮気くんが、右手に拳を作って私に近付いてくる。
先週までの私は、その手を見て殴られると勘違いしたけど、今の私はもう違う。
彼と同じように右手を拳にした私は、彼の拳にコツンとするため、おずおずと近付けた。
───けど
「京香」
突如鼓膜を揺らした声に、浮気くんとグータッチする寸前で手が止まった。