つれない男女のウラの顔
「そう呼ばれていること、ご存知だったんですね」
「先輩がご丁寧に教えてくれたお陰でな」
その先輩、なんて強者なの。
そして成瀬さんも、変態だなんて言われて嫌じゃないのだろうか。まぁ彼のことだから塩対応で乗り切るのだろうけど。それとも案外そういうノリが好きだったりして。
そう思えるのは、やっぱり彼の“裏の顔”を知ってしまったからなのだろうか。
不思議だな。私の中の成瀬さんのイメージが、どんどん変わっていく。
無愛想で、こちらが冗談を言ってもクスリと笑わなくて、感情が死んでいる──そう聞いていたのに、さっきは私のギャグ(?)で微かに笑ってくれた。
会社で見る成瀬さんは実は偽りの姿で、彼も私と同じで理由があってクールなキャラになっていたりして。
「…成瀬さんは人付き合いが苦手ですか?」
「そうだな。得意ではない」
踏み込んだ質問にも、成瀬さんはすんなり答えてくれた。
成瀬さん、それはやっぱり、アレが原因?なんて聞けないけど、今ならこの話題を出してみてもいいだろうか。
「私も苦手です。すぐに赤くなっちゃうこの顔のせいで、色々苦労もしてきたし」
景色に視線を向けたまま、恐る恐る言葉を紡いだ。隣から聞こえてきたのは「そうか」という短い返事だった。
「昔から緊張したり、恥ずかしくなったりすると顔が赤くなるんです。先日、お酒に弱いって言ったのは嘘で、多分あがり症とか赤面症ってやつなんだと思います。何となく周りには秘密にしたくて、なるべく人と関わることを避けていたらいつの間にかコミュ障極めちゃって…。そのせいでクールとか一匹狼ってイメージが定着してしまったので、余計に赤面した顔を見せられなくなったっていう…」
言い終えた後にハッとした。私、なにひとりでペラペラと喋っているのだろう。
「すみません私の話ばっかり…退屈でしたよね」
「いや、気持ちは分かる」
すかさず謝罪すると、返ってきたのは意外にも私を肯定してくれる言葉だった。
驚いたのと同時に、胸がきゅっと締め付けられた。