つれない男女のウラの顔



「勝手なことをして悪かった」

「え…?」


同期会からの帰り道、迎えに来てくれた成瀬さんと手を繋いで歩いていると、彼が突然ぽつりと紡いだ。

悪かったって、なんのことだろう。成瀬さんに謝られるようなことをした覚えはないのに。


「こんなに早く会社の人間にバラすつもりはなかったんだ。京香の意見も聞かずに、自分勝手だった」


どうやら私達の関係を皆にバラしてしまったことを言っているらしい。

チラッと成瀬さんの横顔を確認すると、少し落ち込んでいるように見えた。繋いでいる手に力を込めて「全然気にしてないですよ」と返すと、横目で私を捉えた彼は「ありがとう」と力なく笑った。


「浮気だけならまだしも、まさか石田が参加すると思っていなかったから、今日はずっと落ち着かなくて」

「私も驚きました。同期会なのに石田さんの姿があったから。でも何もありませんでしたよ。きっと成瀬さんや二輪さんのお陰ですね」


石田さんから直接謝罪を受けたことは伝えなかった。最後の石田さんの怯えた顔を思い出すと、直接言葉を交わしたことは黙っておいた方がいい気がしたから。それに何もなかったのは事実だし。


「どうやら俺は独占欲が強いらしい。二輪に指摘されて気付いたよ。俺の彼女だということを早く周りに知らせたかった。自分がこんなにも嫉妬深い男だとは思わなかった。もし重く感じてしまったら申し訳ない。なるべく気を付けるから」

「ふふ、私本当に愛されてますね。嬉しいです」


“花梨さん、愛されてるね。男の僕から見ても成瀬さんは良い男だと思うし、お似合いのカップルだよ”

石田さんから貰った言葉を思い出して、思わず顔がにやけた。急に笑い出す私を見て、成瀬さんが怪訝な目を向けてくる。

無愛想で塩対応、女性を寄せ付けない彼が、実は独占欲が強く嫉妬深い男だなんて、誰が信じるだろう。

いや、私だけが知っていればいいか。彼の“秘密”を知っているのは、私だけでいい。




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