つれない男女のウラの顔

「そういえば旭さんにお話があるのですが…」

「話?」


突然話を切り出した私に、成瀬さんは真剣な表情で此方に視線を向けた。


「実は、昼に母から連絡がありまして、父の検査結果の報告を受けたんですけど」

「本当か?結果はどうだった?」

「腫瘍は良性でした。心配いらないみたいです」

「そうか。よかったな」


成瀬さんが安堵の息を吐き、張り詰めていた空気が一気に和んだ。


「その節はご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。わざわざ実家まで送っていただいたのに…早とちりをしてしまったと、母も反省していて」

「あれは俺が好きでやったことだからいいんだよ。それより本当によかったな。京香もやっと安心出来たんじゃないか?」

「はい、そうなんですけど…」


報告を受けた時は本当に嬉しかった。心の奥でずっと気になっていたから。

両親が大変な時に自分の恋が実って、ひとりで浮かれて。幸せだけど何となく両親に後ろめたい気持ちがあって、成瀬さんとのことは両親に報告出来ずにいた。
だから検査結果の報告を受けた今日、やっと彼氏が出来たことを伝えられた。

初めて私の色恋話をきいた母はとても喜んでくれた。早く紹介して欲しいと、私以上に浮かれていた。

それはよかったのだけど…


「何か他に気になることでも?」

「いえ、両親のことはこれで安心できましたが、その…」


成瀬さんに“父の夢”の話をしてしまったことを、今になって後悔している。

私とバージンロードを歩くことが夢だと父は言った。そしてその夢を叶えてあげたいと母は言った。

私は実家からの帰り道、成瀬さんにその話をしてしまった。
両親が私の結婚報告を待ち望んでいることを、成瀬さんは知っている。

成瀬さんがそのことでプレッシャーを感じていたらどうしようと、ずっと気になっていた。



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