つれない男女のウラの顔
「ガードが固い、クールな女……?」
周りからそう聞いていたが、イメージとだいぶ違った。
後輩は「話しかけてもすぐに逃げられる」と言っていたのに、昨日の彼女は逃げるどころか歩み寄ってきた。
あれは本当に花梨だったのかと、思わず疑ってしまう。壁のせいで顔もよく見えなかったし。
でもまぁ本人で間違いないのだろう。俺の名前も呼んでいたから。
どこか掴めないやつだ。混乱させられているせいか、昨夜はなかなか寝付けなかった。花梨のことが頭から離れなくて、今朝も無駄に早起きをしてプチトマトとにらめっこをしている。
それにしても、意外と話しやすいやつだったな。柄にもなく笑ってしまった。
基本的に自分のテリトリーに入られるのは好きじゃない。相手が女となると特に。
それなのに、不思議と他の女に感じるような不快感はなかった。それどころか軽く心を許してしまったのは、花梨が同じ秘密を持っているから…?
うん、きっとそうだ。そうでないと“いつでも話しかけてもらって構わない”なんてらしくない言葉、絶対に出てくるわけないのだから。
たまにベランダで飲む酒が好きだった。ひとりでのんびりと、熱い日に冷えたビールを飲むのが密かな俺のストレス発散法だった。
そこに他人が加わるとか、考えられないはずなのに…。
──だからその…また話しかけてもいいですか?
あの一言がなぜか俺の胸に響いた。
もしかして俺、かなり疲れてんのかな。
「…変なやつ」
花梨のギャグを思い出して思わず笑ってしまいそうになりながら、ボウルいっぱいに入ったプチトマトに手を伸ばす。とりあえずひとつだけ手に取り、それをそのまま口へ運んだ。
「…………うま」