つれない男女のウラの顔
どういうこと。いつの間になくなった?
サーっと血の気が引いていく。そんなはずがないと、玄関の前でしゃがみ込み慌ててバッグをひっくり返した。
共用廊下の床にバッグの中身を全て出し、雨と汗で顔に張り付く髪を掻き分けながら、荷物をひとつひとつ確認していく。
だけどいくら探しても無い。部屋の鍵がどこにもないのだ。
「なんで…」
こうしている間にも雷は鳴り響いていて、しかもその音は徐々に近付いてきている。それに恐怖を覚えながらも、何度もバッグの中を確認した。だけどやっぱり見つからない。
どこで落としたんだろう。今までこんなこと一度もなかったのに。
もしかしてバッグを抱えた、あの時?もし落としたのなら音で分かりそうだけど、さっきはかなり焦っていたから気が付かなかったのかも。
一度会社に戻る?いやいや、こんな大雨じゃ戻れない。
とりあえず廊下に散らばっている小物を一旦バッグに戻そうとした矢先、空が激しく光った。その直後にバキバキッと大きな音が鳴り、思わず「ひぃっ!」と声が漏れた。
恐怖のあまり足が竦み、目に涙が浮かぶ。
(誰か助けて…っ)
蹲ったまま自分で自分の肩を抱き、ぎゅっと目を瞑る。このまま雷が過ぎ去るのを、ただひたすら待とうと決めた、その時だった。
「──花梨?」
突如私の鼓膜を揺らした低音に、弾かれたように顔を上げた。